夜想曲
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ひとつめ


今を形作る大切なもののひとつめ。



彼女と血が繋がっており、存命しているのは両親と母方の祖父母だけ。

家族三人暮らしではあったけれども父親も母親も
人付き合いが良く、また人に好かれるタイプであったためか。
何時も彼女の周りはなんだかんだで賑やかであった。
滅多な事では動揺せず、何時も笑顔の父親と
穏やかに微笑み見守りつつも、何時までも娘気分を忘れずな母親と。
彼らの知人友人は、惜しみない愛情を彼女に注いでくれた。

母親が頼み込んだのを引き受けてくれた家庭教師の青年は
父親とは対照的に笑顔を見せる事は珍しい事ではあったけれど、
丁寧に理解するまでとことん付き合い、褒めるときに偶に小さな微笑みを見せてくれた。
彼女はそれを見るのがなんだか嬉しかった。
彼女はこの青年が大好きだった。


何時も手作りのお菓子と八百屋を営む両親を持つ母の友人の女性は
何故かいつまで経っても少女の様で。その不思議さと、魅力にこっそりと
『おとぎ話の人みたい』と、思っていた事を母親に話すと何時も母は黙って微笑んで彼女の頭を撫でた。
笑顔で女性が連れて行ってくれる場所はいつも楽しくて彼女も笑顔になった
彼女はこの女性が大好きだった。


母親の父とは違うけれど頻繁に父の元に足を運ぶ老人もいた。
人生の大半を鹵獲術士としてのを歩んだ彼の知識に彼女は興味を示した。
彼は1人の記憶を無くした少年を育てており、その子の話を良く彼女にしていた。
『何時か私が居なくなった後、助けになって上げてくれるかい?』少し寂しげに話す老人。
彼女は大好きな老人を安心させて上げたかった。
だからひとつ、約束を交わした。
彼女はもう一人の祖父の様な彼が大好きだった。


「大好きよ」と笑顔で告げることが何時でも出来た。







―――


暖炉の薪が爆ぜる音で珍しく直ぐに目が覚めた。
幸せで、暖かい夢だった。

だから毛布を手繰り寄せて丸くなる。
瞳を閉じるのに力は必要は無かった。
その位迄には慣れてきたらしい。


「大好き」と言葉で告げる事は今も出来る。
けれど其処に相応の分だけの気持ちを込めて表す事は今はまだ出来ず。
発するそれは単なる言の葉となり飛び、相手に届くことは無い。


此を考え出すと終わらないのでころりと転がって更に小さくなる。
暖炉側で本を手にしているだろう人物が何も言わないのが今はとても有り難い。









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